ビル前 22:00
車まで歩いていると、
「斉藤さん!」
名前を呼ばれた。振り向くと…だめだ。
暗くてわからない。
目をこらしていると、
だんだん姿が見えてくる…
「真中…?」
「間に合ってはいよかった。はい、これ」
手渡されたのは俺の手帳だった。
「村崎さんが持ってて、返すのに斉藤さんを
探してましたから」
ああ、そうだ。
明日の資料をつくるのに、預けていたんだ。
「村崎さんがまさか副部長室にいるとは
思わなくて、佐藤さんもいないし、
相模原達もいなかったから、一緒に
もう帰ってしまったかと思いました」
いつもより饒舌なのは、焦ってくれた証拠だ。
探して走りまわったのだろう…
息が早いし、額に汗をかいている。
「?」
ふいに真中が首をかしげた。
「…なに?真中」
「いつもならここでお礼にキスしてあげよう
とか、何とか言うのに」
名前が出ただけなのに胸に引っ掛かる。
軽口なんて言えなくなる。
これが佐藤の言う向いてなさなのだろうか…
「そうだな、お礼しなくちゃな」
「仕事頑張ってください。それでいいです」
「…ありがとう」
部屋に帰って、手帳を開く。
大事なのは、手帳に挟んだこのメモ用紙。
用件と、他愛も無い言葉が書いてある。
好きになった頃に貰ったから嬉しくて
今ではお守りみたいに想っている。
これがないと不安でだめなんだ。
明日の仕事が成功したら、
自分に自信がつくだろうか。
違う俺になれたらその時は
彼と……
■
大事な忘れ物を無事手に入れ、
安心して良く眠る事ができました
明日の仕事は成功するでしょう。
clear!