獲物を狩るのに失敗した私は、忍におぶってもらい
城へと戻った。

…一生の不覚だ。

傷を悪くして寝込む私に、
なにが楽しいのかにこにことして銅が
かいがいしく世話を焼く。

以外にも忍は嫌味の一つも口に出さず、
毎日なんだかんだと薬を運んできた。




そして迎えた新年会は、
散々たるものだった。

黙って配下の国々の王が見せびらかす
自慢の品々をただ見ているしかない。

特に、西の王には我慢が切れた。

たかが犬の半獣の剥製で自慢し、ちらちらと私を見る。
私は毎年、生け捕りにしている!
それを剥製程度で…

切り殺そうと、剣を預けた忍を呼んだ。

忍はわかっていたくせに剣を持ってこず、代わりに
羊の織物を持ってきた。

「我が君、外に雪が…
お身体にさわるといけませんのでこれを」

聞いた事もないような丁寧な口調でそう言い、
見たくも無い織物を私の膝に掛けた。

その間、会場は静まりかえっていた。

やがて、声が溢れ出す。

―…黒の騎士。生きていたのか。流れ者で…
私の国の兵も…千人の軍を一人で…魔剣を…
…あの王を我が君と呼んだぞ…―

「忍」
「はい」
「有名じゃないか、私よりも」
「そうすねるなよ、ほら、王さん達が見てるぜ、笑えよ」

小声で言葉を交わし、忍が下がろうとした時…


「あーだ め、えー」
間の抜けた声がした。

次いで、会場を白いものが掛けぬける。

赤い首輪についた金色の鈴が、りんりんと鳴り響く。

それは、ふかふかの天使のような綿毛頭と
獣の脚をした、羊の子供だった。

白い獣を褐色の子供が追う、
やっと捕まえて、会場の真中で座り込んだ。

「銅!」
「…ごめんなさい。おうさ ま。銅は、まどしにマド…魔どうも」
「魔道門を使ったのか?」

魔道門、という言葉に再び会場がざわついた。

「帰る を、お うさまの ところ、思た ら。しぱいした」
知らない人がたくさんいる、とでもいいたげに銅がきょろきょろと周りを見る。
ここがどこで何をしているか、まったくわかっていない。
「困った奴だ…」

「銅、めぇちゃん で、それより もと きれい毛布つくる。おうさま に」
「そうか、それは頑張ってくれ」

めぇちゃんと言ってるからには、何度も遊びに行って来たに違いない。
人が寝込んでいるのをよい事に、この奴隷は…

忍が笑いを噛殺しているのが、私にはわかる。

私は銅を手招いた。

「来い、銅。忍と一緒に下がるがいい。
他の国の民は滅多に魔道門など使えんのだ。
我が城では奴隷ですら自由に行き来しているなどど、迂闊に言うではない。
半獣の毛の織物など、子供でもつくれて自慢にならないなどと知れたら失礼だ。
そうでなくとも王達は、私より優ろうと必死なのだからな…」

私が一人一人を見つめると、
全ての王が卑屈に目を伏せた。

…これでこそ新年会だ。










……その後。
王様の納める国は益々評判高く、
優秀な商人や学者がたくさん集まってきました。

国は富み、戦の無い1年で、
幸せに暮したということです。

羊も、よく世話をされて可愛がられ、長生きしました。

めでたしめでたし。