私は忍を呼び、狩りは中止する事を告げた。
今年の獲物は銅にすると言うと
忍は激昂したが、銅の一言で部屋を出て行った。
その夜、誰にも知られずに忍は城を出てしまい、以来、行方知れずだ。
私は銅にあらゆる性愛を教え、
銅もよく憶えた。
それから迎えた新年会は例年とかわらず、
配下の国々の王達の自慢大会になった。
我が国にはこのような産物がとれる
我が国にはこのような宝が有る。
私の国は、私が王になるまでは何もない貧しい国だった。
私は戦をし、勝ち続けて
富める国を従えてこの国を強国にしたのだ。
我が国の自慢は素晴らしい獲物。
獲物がすなわち我が国の力を示し、配下の国へ改めて私の力を見せる事になる。
今年の獲物を披露した時、
場内は静まり返った。
透き通る薄い絹と金輪で飾った銅は精霊のように美しかったが、
ただの褐色の肌の奴隷をわざわざ披露した王は気がふれたのかと
とまどう沈黙が流れた。
沈黙は嘲笑に変り、
そして銅を味見した彼等はもう、私を笑う事はなかった。
天かける龍より、下半身が蛇の美女より、2本足のケンタウロスより、
銅は素晴らしい…
帰りぎわ、南東の国の王が言った。
「全能の王、あなたは砂漠の民をも配下にしたのですか」
と。
「砂漠の民は沢山の妻を持ち、沢山の子をつくる。
生まれる子供の中には、砂漠の石の神の加護を受けた魅力の高い子が稀にいるという。
あれはその神守の子に違いない。しかもそれは、王族にしか生まれないとすれば、
全能の王よ、あなたは砂漠をも手に入れたのでしょう?」
私は曖昧に返事した。
何らかの事情があり、さらわれた王の子が奴隷として売られたにちがいない。
それは、良い物を拾った。
銅に魅力を授ける砂漠の石の神の加護があるとすれば、
私には勝利と幸運を授ける神の加護があるにちがいない。
私は今年も良い年を迎える事ができた。
……その後。
王子発見の噂をきいた砂漠の民に暗殺され、王様はあっけなく死んでしまいました。
世界は乱れましたがほんの数ヶ月で混乱が終り、平和になったのは、
民主主義の小さな国に現れた黒髪の戦士の働きによるものだという事です。
王がいなくても暮してゆけるのだと知った国民は
前よりもずっと幸せにくらしました。
ついでに砂漠の民も、諦めていた王子がいっそう魅力的になって戻り、
幸せな1年をすごしたそうです。
めでたしめでたし。
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