それから数年後…
…僕は今、ある会社で研究の仕事に携わっています。
毎日毎日、数値を出しては計算し表にして上司に提出する
そんな作業がほとんどの地味な仕事です。
それでも、楽しいと思ってやっています。
よく僕の勉強をみてくれた父さんの影響かな。
僕はデスクワークが向いてるみたいです。
この前なんて、社長直々に仕事の成果を褒められたんですよ。
それで、ボーナスの代わりに有給休暇をもらったので
来月、家に帰ろうかと考えています。
父さんの作った御飯を食べるのも久しぶりだな…
お話ししたい事がたくさんあります。早く会いたいです―…
■
「………勝手な奴だ」
出て行ったきり、連絡もしないで突然帰ってくるという手紙に、
そう呟きながらもあなたの頬はゆるむのでした。
もう一度手紙を見返し、気付きました。
発送の日付は今月ですが、
便箋に書かれた日付は先月です。
ガチャッ。
あなたの部屋のドアが開いて―…
「ただいま」
「…おかえり。チャイムも鳴らさんで入ってくる奴があるか」
久しぶりに見る息子は、かわっていませんでしたが
やはりすこしだけ、以前より大人びたようです。
「だって、自分の家に入るのにチャイムならしたら変だよ」
「…そうだな。でも父さんの部屋に入るときはノックしなさい」
「だって、いないのかと」
「良い訳するんじゃない」
「はい。ごめんなさい…ふふ」
「なにがおかしい?」
「久しぶりにおこられたと思って…ただいま父さん」
「…おかえり」
「あれ、父さん。ソレまだ使ってくれてないの?」
「まだも何もさっき着いたんだ」
小さな小包が宅配で届き、
中に手紙が入っていたのです。
「忙しくて出すのが遅れたんだよね…はい、これ。と、これ」
「これ…は…、おい、お前」
「これ、僕が開発したんだ。今、1番売れてる。社内じゃない、市場トップでね」
あなたの右手にはコンドーム。
左手にはローションがあります。
「父さん、このコンドームは今までに無い薄さで装着感がほとんど無いんだ。
こっちは、つけた時ひんやりしない優れた水溶性ローションで皮膚をケアする効果もある」
「…いらん!」
「疑ってるの?使ったらこの製品の良さが分かるよ」
「使う事などない!良い製品を作れるお前はさぞかし…。いや、何でもない…」
「僕も実践で使ったことはないよ?なにしろ忙しくて。父さんに正直な感想を
きこうと思ったのにな」
「そ、そんな事は会社できいてこい!!」
「駄目だよ。会社の人間は気を使ったりライバルだったりでね。
やっぱりこういう事は家族じゃないと」
息子さんは勉強のしすぎで若干偏った性格に育ったようです。
「ほんとうの父さんと母さんはお墓の中だし…」
「お前、どこでそれを…!」
「まぁ、いろいろと。だからって今更、もう他人だとは言わないでしょ?
僕、独立を考えていてね。父さんに社長をして欲しいんだ。
これは世界中で必要な商品だから、必ず成功する。大丈夫。
これからは僕があなたを…。
あ、そうだ。今日は一緒にお風呂に入ろう。
いいじゃない。昔はいつもそうしてたんだから
ね、父さん」
■
とりあえず、息子は立派に育ちました。
子育てお疲れ様でした。
■end