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   『 息子を頼む…
息子は…







それから数年後…
































…それは二十年程昔の、親友からの手紙でした。



「無くしたと思っていたのに…」

休日に本の整理をしていたあなたは
ベージの間に挟まれた無記入の封筒に気付き、
中からこの手紙を見つけたのです。

こんな封筒に入れていただろうか…

気がかりと懐かしさといろいろな思いを胸に憶えながら
あなたは本棚の整理を続けます。

息子の為にと買い揃えた本は一部屋を使う量になり、
処分したほうがよいのでしょうがあなたは捨てる事が出来ません。

本だけでなく小さな頃に遊んでいたぬいぐるみも
子供の頃に好きだったボールも
すべてそのままに残してあります。

いつか、彼が戻ってきたとき見せてあげよう。
彼も、本当の父親のように妻を娶り子供をもうけるだろう。

その時、思い出をみせてあげたら喜ぶにちがいない。

私があげられるものはもう思い出しかないのだから。
私には思い出しかない。

昔の彼も…息子も…

…愛していたのに。





あなたは何を見ても息子を思い出す家を出て歩き出しました。

花屋に寄って白い花を買いました。

バスに乗って、丘の前で降りました。



見上げると、緑の丘に白い墓石が見えます。

あなたは墓地へ続く石の階段を上りはじめました。



ずいぶん上って見晴らしがよくなってきました。

天気も良く、気持ちの良い風が吹いてきます。

ここに、息子の本当の両親は眠っているのです。


「…おや」

目指す墓石の前に、1人の青年が立っています。

「お前…」





「…父さん、久しぶり」




「来てたのか」

「うん。…昔さ、ここに連れてきてくれた事あったね。
おじいちゃんとおばあちゃんのお墓だって」

「…嘘をついてすまなかった」

「ううん。ありがとう。…育ててくれて、
ありがとうございました…」

墓前に花を手向け、手をあわせて目を閉じました。
自分に向って頭を下げる、彼の方を見る事ができません…

「…今まで、どうしてた?」

「うん、いろいろ。働いて自分でバイクも買ったよ」

「そうか…。心配したが、元気でやってるならそれでいい。」

「連絡もしないで…ごめんなさい」

再び頭を下げる彼の髪を撫でると、
彼はそのまま胸に抱きついてきました。

「僕、父さんに迷惑かけてると思って…
僕がいなければ父さんは自由になれると思って…」

「私の事は考えなくていい。
お前がしあわせならそれでいいんだ」

「僕…覚えてるよ。一緒に遊んでくれたこと、
いろいろ教えてくれたこと…僕、あなたの事を…」

「…気が向いたら家に遊びにおいで。
お前の物は全部とってあるから」

そう言うと彼は離れました。
うつむいて自分に言い聞かせるようにこう言いました。

「遊びには…いかない」

「だったら…」


手を伸ばし、彼と手をつなぎました。
彼が子供の頃、よくそうして歩いたように。

こう言い直すと彼は笑顔をみせました。

「帰っておいで。お前の家に…」

「…うん」







息子は『あなたの子供』から『ひとりの大人』になりました。
これからは新しい生活がはじまるのです。

子育てお疲れ様でした。



■end