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それから数年後…
…それは二十年程昔の、親友からの手紙でした。
「無くしたと思っていたのに…」
休日に本の整理をしていたあなたは
ベージの間に挟まれた無記入の封筒に気付き、
中からこの手紙を見つけたのです。
こんな封筒に入れていただろうか…
気がかりと懐かしさといろいろな思いを胸に憶えながら
あなたは本棚の整理を続けます。
息子の為にと買い揃えた本は一部屋を使う量になり、
処分したほうがよいのでしょうがあなたは捨てる事が出来ません。
本だけでなく小さな頃に遊んでいたぬいぐるみも
子供の頃に好きだったボールも
すべてそのままに残してあります。
いつか、彼が戻ってきたとき見せてあげよう。
彼も、本当の父親のように妻を娶り子供をもうけるだろう。
その時、思い出をみせてあげたら喜ぶにちがいない。
私があげられるものはもう思い出しかないのだから。
私には思い出しかない。
昔の彼も…息子も…
…愛していたのに。
■
あなたは何を見ても息子を思い出す家を出て歩き出しました。
花屋に寄って白い花を買いました。
バスに乗って、丘の前で降りました。
■
見上げると、緑の丘に白い墓石が見えます。
あなたは墓地へ続く石の階段を上りはじめました。
■
ずいぶん上って見晴らしがよくなってきました。
天気も良く、気持ちの良い風が吹いてきます。
ここに、息子の本当の両親は眠っているのです。
「…おや」
目指す墓石の前に、1人の青年が立っています。
「お前…」
「…父さん、久しぶり」
「来てたのか」
「うん。…昔さ、ここに連れてきてくれた事あったね。
おじいちゃんとおばあちゃんのお墓だって」
「…嘘をついてすまなかった」
「ううん。ありがとう。…育ててくれて、
ありがとうございました…」
墓前に花を手向け、手をあわせて目を閉じました。
自分に向って頭を下げる、彼の方を見る事ができません…
「…今まで、どうしてた?」
「うん、いろいろ。働いて自分でバイクも買ったよ」
「そうか…。心配したが、元気でやってるならそれでいい。」
「連絡もしないで…ごめんなさい」
再び頭を下げる彼の髪を撫でると、
彼はそのまま胸に抱きついてきました。
「僕、父さんに迷惑かけてると思って…
僕がいなければ父さんは自由になれると思って…」
「私の事は考えなくていい。
お前がしあわせならそれでいいんだ」
「僕…覚えてるよ。一緒に遊んでくれたこと、
いろいろ教えてくれたこと…僕、あなたの事を…」
「…気が向いたら家に遊びにおいで。
お前の物は全部とってあるから」
そう言うと彼は離れました。
うつむいて自分に言い聞かせるようにこう言いました。
「遊びには…いかない」
「だったら…」
手を伸ばし、彼と手をつなぎました。
彼が子供の頃、よくそうして歩いたように。
こう言い直すと彼は笑顔をみせました。
「帰っておいで。お前の家に…」
「…うん」
■
息子は『あなたの子供』から『ひとりの大人』になりました。
これからは新しい生活がはじまるのです。
子育てお疲れ様でした。
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