知らない男の人と天君は更衣室を通りすぎ、人気の無い非常階段を上った。
歩きながら途中、天君は首を傾げた。
行き先が違う事に気付いたが、「僕」を信頼して付いて行く…。
その人は僕じゃないよと、どうして僕は言わないのだろう。
胸の鼓動が高鳴る。
踊り場で足を止めた2人に気付かれないよう、僕は階段で息を殺した。
いや、いや、やめて夏木君。と天君の可憐に震えた声が聞える。
よく聞き取れない、低い男の人の声、
いや、いや、たすけて夏木君。天君は泣いている…
僕はゆっくり階段を上った。
男の人は僕に気付いたが、抱くのを止めなかった。
「…お前もやるか?待ってな…次、代わってやるから」
天君はしゃくりあげた。僕の名を読んだが、まるで遠くにいる人を呼んだようだった。
彼は僕がここにいるのに気付いていない…
僕は、男の人が終わった後に、天君の中に入った。
しくしく泣いてる天君を1人残して男の人と一緒に一度、その場を離れた。
プールで汗をおとして、何も知らない顔をして天君のもとへ戻る。
天君は更衣室でコンタクトをつけていた。
「天君、はぐれちゃったから探してたよ。だから手をつなごうって言ったのに」
「夏木君…」
天君は僕を見た。大きな瞳にみるみるうちに涙が溜まる。
彼は僕に近寄り、ぎゅうっと精一杯僕の手を握り締めた。
でも、なんて軽くてか弱い力なんだろう。
「どうしたの?迷子になって恐かった?もう、僕から離れたらだめだよ。わかった?はい、は?」
「はい」
やっぱり天君はかわいい…
何も気付かず震える身体を僕に預ける天君を抱きしめた。
夏休みが終わり、新学期が始まった。
いつも女子に囲まれていた天君は、今ではいつも僕の側にいる。
僕は1年待って彼を抱いた。
「あっ」
最中、彼は一度だけ意味の違う声を上げた。
バレた。そう思った。
しかし天君は何も言わなかった。独りでショックに耐えていた。
その時はじめて、僕は罪悪感を感じた。
END