噴水のしぶきがきらきらと光りながら、彼に降り注いで彼を濡らす。

濡れた髪が細い眉を隠してる。長い睫の先に溜まった雫。
すべすべした白い肌。微かに紅い頬の色。天君を見てると僕……

「天君てほんときれいだよね…」
「ありがとう」
天君はさらりと、棒読みにそう言った。きっと、何度も言われて何度も同じ返事をしてるのだろう。

「でもポクつまんないから…」
「そんな事ないよ?僕は公園で会ってちょっと話した時すぐに、
 天君ともっと話したり一緒に遊んだりしてみたいなあって思ったよ」
「そうなの?」
「うん。天君は女子にもてるし、実は、誘ったけど断られるかとドキドキした」
僕が笑いながらそう言うと、彼はためらいがちに口を開いた。
「ボク、女の子はあまり好きじゃないの」

僕の胸は期待に弾んだ。天君がためらいながら口を開く。
「女の子は、ボクの事、かわいいって言ってくれるし、ボクが一緒にいると喜んでくれるし…
 でも、ほんとうは、ボクそういうの何だか…」
なんだ。そういう意味か…。僕は彼に「わかるよ」と言った。
「かわいいから持っておきたい自慢したいって、物扱いみたいだもんね」
「…そうなの」
天君はふうっと息をついた。
「ボク、男の子もキライ」
………。
「男の子は乱暴だし、僕、同じ事したいって思わないの。
 ボクね、男の子と遊ぶといつも、つまんないって言われるの」
「僕は、天君といると楽しいよ」
「夏木君はやさしいから」
「そんな事言ってくれるの天君だけだよ」
冗談を言われた後のように僕は笑った。
洋兄ちゃんは僕のこと「我侭だなあ」とか「仕様がないなあ」っていつも言う。
僕は、コドモで何にもできなくて何の役にも立たなくて何も…

天君は僕に近付いた。
前髪や息が微かに触れ合う程に近いところに天君の顔がある。

ごめん天君。
僕は彼の柔らかい唇に、自分の唇を合わせた…

「…ごめんなさい夏木君」
離れた時、謝ったのは天君だった。
「ボク、夏木君にはつまんないって思われたくないから、何でもしようと思ったの。
 でもできなくて…。夏木君はボクの事バカにしないで優しくしてくれたから…」
「なんだ。お礼にキスさせてくれたの…」
「違うの。ボクがキスしたのは、ボク…夏木君には嫌われたくないけど、だけど
 どうしても好きって言いたくて…どう言ったらいいか分からなくて…」
「僕も天君が好きだよ」
困った顔して首をかしげて天君は僕を見てる。
「好き」
もう一度はっきりというと、
「ありがとう」
と、天君はぎこちなく、嬉しそうに僕にそう言った。


それから、夏休みを毎日、天君とすごした。
公園でぼんやりしたり、美術館に行ったり、水着を持たずに海に行って波を眺めたりした。

新学期が始まって、変わった事が2つある。

1つは、いつも女子に囲まれていた天君が、僕と仲良くなった事で、
他の男子とも話すようになり、女子のアイドルから皆のアイドルになった事…。

2つ目は、僕は最近、しっかりしてきたと言われるようになった。
「涼君だいすき」
そう天君が言ってくれる度、僕は強くなれる。彼を守ってあげたいと思うから。

女の子も男の子も、きれいで素直な天君を好きになる。
でも、女の子も男の子も好きじゃない、天君が好きなのは僕だけだから。

                                  END