「たまにはね」

そう言って沢村は「ふっ」て感じに笑った。
そして指先でぱらぱらとページをめくった。

なんだ、読みたい本がなかったから適当に見てたとこだったのかな。
だってやっぱり賢い沢村のイメージじゃないもん、その本。

僕もこことは住む世界が違うな…
沢村の机を通りすぎて、本棚をいろいろ眺めてはみたが、
どの背表紙も僕の興味を引いてはくれず、とても読む気になれなかった。

本棚からはなれてまた沢村の机の前を通った。
さっきとは別の、もっと字が細かい本を見ている。

静かに集中している沢村。

そうそう、これだよこれでなくちゃ沢村は。
そんな勝手な事を思いながら、僕は彼の前を黙って通りすぎた。

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