僕は部屋を後にした。
その日はそのまま家に帰り、洋兄ちゃんの事なんか忘れてしまっていた。
翌日、目を覚ますと僕の頭の中はあの男の人でいっぱいになっていた。
僕に優しくしてくれた事、さみしそうな背中、僕は何もできなかった事…
毎日毎日、あの男の人の事を考えている。
それでも洋兄ちゃんの部屋に遊びに行くのは、
隣の部屋のドアが開いてあの人に会う偶然がないかと期待しているから。
「この前はありがとうございました」なんてドアをノックする自分を想像してみても
実行できないまま日は過ぎてゆく。
アイスを買って貰った事、部屋に誘ってもらった事、僕は相手から何かしてもらわなきゃ
自分からは何も出来ない人間なのらしい。
マンションには表札も出ていなかった。
名前もしらない人に片想いして、僕の夏は終わった。
END