「とにかく泳ご!水着!水着とりに行こうーっ」
「わ…わかった。了解だ」

僕達は自転車置き場に向った。沢村はここまでバスで来たらしい。
「二人乗りして僕ん家行って、次に沢村ん家行って、次プールね」
「…ところでどこのプールに――」
「それは行きながら考えるのっ。はい、乗ってっ」

僕の自転車には荷台がない。
二人乗りする時には後輪の真中に足を乗っけて立ってもらう。
足が置けるような金具はついてる。
沢村は平気な顔して恐がってた。だって曲がり角の度に下りちゃうんだもん。
それで自転車が止まる度に「すまない…」って律儀に反省するからおもしろい。
でも家に着く頃には慣れて下りなくなった。

「あらま、涼ちゃんどこいってたの?さっき―…あらま」
…お母さん。もう涼ちゃんって呼ばないでってあれほど言ってんのに。僕は恥ずかしいよ。
「まー、涼ちゃんがお友達連れてきて珍しい」
「だから僕、友達多いって言ってんじゃん、ねえ?」
「あ、ああ。夏木はクラスの皆と仲が良くて、すごいと、思う」
急に話しをふられた沢村はたどたどしい感じに言った。
「…気を使わせて…ねぇ。これからも遊んであげてね。お菓子あるけど食べる?」
「もーっ、あっちいってよお母さんっ」
「麦茶飲む?」
僕が大きな声を出したのに、完全無視だし。
「もう、何にもいらないったら。これからプール行くんだよ僕達…」
「そうそうプールよ。さっき洋ちゃんにバス停で会って―」
「なに?洋兄ちゃんがどうしたの?」
「この子友達いないからイトコのお兄ちゃんにべったりで、名前なんていうの?
 そう、沢村君。お菓子食べる?」
「お母さんっ」
「そんなに大きな声ばっかり出して。友達に嫌われたらどうするのっ」
誰のせいだっ。
「はいこれ、預かったわよ。プールの券あげるって。よかったわねえ。
 ちゃんと後でお礼言いなさいよ」
「やった。ありがと」

僕はその券と水着を持って家を出た。
外で落着いてよく見る。遊園地のプール券だった。
沢村はちょっと遠慮して市営プールに行こうと言ったが、結局チケットを使う事になった。

沢村の家に着くと、僕の母親とは全然ちがう、きれいで品の良いお母さんが出迎えてくれ、
ついでに車で遊園地まで送ってくれた。

                           プールへ