僕はチケットを、右手に持ったり、左手に持ったり、
水着に挟んでみたりしながら、ひたすら順番を待った。

つらいけど、コレも人生の修行なのだ。
我慢をするといつか何かの役に立つと先生は言っていた。

とりあえず、手遊びする物が出来てよかった。
人間、良い事すると返ってくるんだね、うん。

やっと順番がきて、「滑る時には手をこうして下さいねー」と説明を受けて、
僕は水の滑り台を滑り落ちた。

爽快だー。気持いいー。

滑り終わったプールでしばらく1人、泳いでから
僕は何か飲もうとプールを出た。

…あれ?券は?
右手。左手。水着の中。…無い。

折角、もらったのに無くしてしまった。
何もかも僕の手から離れて無くなっちゃうなー…



僕は1人で家に帰った。
夜、洋兄ちゃんに電話をしたら「明日は1日バイトだから遊べない」と言った。
バイト始めたなんてきいてないよ兄ちゃん…

僕、1人で遊んだのに。
良い子にしたのに何も良い事なかった…

あんなに楽しみだった夏休みを、早く終わればいいと思った。

これは、多分、まだ我慢がたりなんいだ。きっと。
もっと良い子にしてたら、1人で待ってたらきっと洋兄ちゃんに会える。

なぜだかその時、僕はそう信じ、数年経った今でもそう信じている。
いつの間にか疎遠になった従兄弟とは、もうずいぶん会っていない…

                   END