沢村と僕は、波が出る浅いプールに入った。
斜めにだんだん深くなってるプールに僕は横になった。
足元から頭に向けて、穏やかな波が打ち寄せる。
沢村は僕の顔の横に座ってる。
子供達が遊んでるのをぼんやり眺めてる。
僕は洋兄ちゃんの方を見てた。
かっこ良くて、誰にでも優しくて、もてる自分をよく知ってる兄ちゃん…
「…夏木」
「なに?」
「………いや、なんでもない」
沢村はぼんやりしてるように見えたけど、考え事をしていたんだなと思った。
沢村は、考えてからではないと喋らない人だから。
彼が何を言おうとして、何を言えなかったのか、分かった。
「でも王子様が王子様と幸せになる話はどこにもないんだよね」
「………」
「沢村は頭良いから、分かったでしょ。僕、兄ちゃんが好きだったんだ」
「いつか、王子様が王子様と幸せになる話を見つけてくる……」
「ありがとう沢村」
僕は気付いていた。
沢村がすごく優しい人だってこと。
だから余計に考えてしまったり、不器用になってしまったりする事。
僕が、沢村を好きになってしまってる事…
好きになっちゃいけない。
だって沢村とは友達になりたい。沢村は何でも知ってるし、僕に無い物をいっぱいもってる人だし、だから………やっぱり好きだ。
「僕どうしよう…」
「いつかきっとうまくいく」
沢村がそっと口にしたその言葉は、
僕の好意が自分に向けられていると知っても変わらないのだろうか。
繰返し波が打ち寄せる。
ずっとここで沢村とこうしていたい…
「……一度、夏木と話をしてみたいと思ってた」
「え?僕?」
「夏木はいつも明るくて皆に好かれていて…。君のようになりたいと憧れていた」
驚いた。あの沢村が僕のことそんな風に思っていたなんて…
「友達になりたいと思っていたが…」
沢村は冷静に僕を見ている。しっかりとした強い瞳。
「好きな男がいると聞くと、自分も君を好きだったのではないかと、そう思えてならない」
「……それって、僕はどう思ったらいいの?」
「聞き流してくれ」
「そんなー…だったら言わないでよ」
「考えてたって何もかわらないと気がついた。夏木もそうすればいい」
「すき」
「そうイトコに伝えるといい…」
「……いじわる」
だって、沢村の顔、赤いんだもん。絶対誰に言ったか分かってるよ今の。
「沢村と恋人になってあげてもいいけど友達にもなりたいんだよ。
そんなのって、どうしたらいいの?でもうまくいくって言ったよね?」
「…やはり考えなしに話すものではないな…」
「沢村ー?」
「王子様の仰せのままに」
僕の王子様はそう言うと、僕の手を取り、手の甲にキスをした。
END