「そんなのやだよ…」
僕は言って、うつむいた。

「勇士のバカ」
口が勝手に動く…。止めようとしたけど、喋らなかったら泣いてしまいそう。
「ひどいよ、そんな言い方するなんて、僕が勇士を好きなの、気持悪いって思うなら
 思えばいいよ、だけど、僕、そんなんじゃないのに…」
「…誰を好きだって?」
ひどい。勇士はいじわるだ…

「勇士。僕は勇士が好きだった」

「調子良い事言うな。あんなに『兄ちゃん』『兄ちゃん』言ってたじゃねえか…」
「それとこれとは好きが違うよ。もういいよ、わかったから…」
とうとう僕は泣いた。
「泣くなって…」
勇士の手がそっと僕の肩に触れて嬉しかった。

しかし次の瞬間、勇士は何かを思い出したようにその手に力を込めた。
「…『兄ちゃん』の為に部活辞めたくせに。俺より『兄ちゃん』のがよかったんだろ?オマエ」

「勇士が冷たくなったから、僕、あきらめたんだよ。
 距離をおいたらまた仲良くしてくれるかと思って…なのに…もうダメだし…
 もう…友達にも戻れないじゃないか…こんなの、勇士の所為だよ。ひどいよ」

「なんだそりゃ。ひどいのはオマエじゃねえか、何かにつけてかっこいいねーとか言って
 人をその気にさせたくせに、二言目には『兄ちゃん』言いやがって。
 先輩も口説いてきたかと思ったら遊びだし、俺はもう人間不信だ!
 一生独りだったらオマエの所為だからな!」

勇士の勝手な言い分には涙も乾いた。
「…勇士って僕のこと…」
「…いい、考えるな。忘れろ」
勇士の顔が赤いのなんて初めて見る。

それから、僕等は教室で抱き合ってキスをした。




夏休みが終わり、新学期が始まり、最初のテストで成績を落した勇士の為に
僕は洋兄ちゃんに先生を頼んだ。
「勇士、これが洋兄ちゃんね。洋兄ちゃん、彼氏なの。勇士ね」
洋兄ちゃんはにっこり笑って優しく言った。
「涼、友達は『彼』でいいんだぞ。『氏』までつけたら言葉がおかしいぞ」
「だって彼氏なんだもの」
「ははは、どうしても『氏』をつけたいんだな、涼は」
「だから恋人なんだってば。ちゃんとキスもしたしセー…」
勇士に拳で背中を殴られた僕は痛さに机につっぷした。
「勉強、お願いします。お兄さん」
「そう…だね。勉強しようか」

「…できてるなあ。勇士君実力はあるみたいだけど?」
「まあ人並には」
「じゃあどうして来週補習なの?放課後補習だと遊べないから困るんだよ僕」
「最近静かだと思ったらキミに迷惑をかけていたのか…」
「迷惑なんてとんでもありません、お兄さん」
「涼によく出来た友達が出来て嬉しいよ」
「なんでーっ。勇士はイイばっかりで僕のほうが大変なのに。慣れたと思ったら出来ないしーっ」
「…意味がよくわからないが」
「考えちゃいけませんお兄さん!」

洋兄ちゃんの部屋を出て僕はものすごく怒られた。
「とにかく、いらん事言うなお前はっ」
「いいじゃん減るもんじゃなし」
「減るんだよ!!」
めちゃくちゃだよもう。
「勇士、勉強はわかったの?」
「元から大丈夫だっつってんだろ。教室さえ変われば集中できるんだよ俺は」
「ふーん」
「はっ…」
以前はかっこいいとだけ思ってた勇士を最近かわいいと思う。
「僕の所為なら僕がきちんと責任とってあげるからね。将来は結婚しようね」
「……アホ」

僕を無視して先に歩いてく勇士に追いついて、並んで歩くと
勇士は僕と手をつないでくれた。

                          END