ここでキスして。

…なんて、言えるはずがなかった。
代わりに僕はこう言った。
「兄ちゃん、遊んで」
「ああ、いいよ」

手をつないで引っ張ってもらったり、追いかけて捕まえたり、
僕はいつもよりたくさん兄ちゃんに触れた。

触れて、遊んで、笑っていたら、もういいやと思った。
もう終わってもいい。

「涼、涼。もう疲れた。そろそろ遅いし、帰ろうぜ」
「えーっ」
「また遊んでやるから」
「うん…。でも、もう僕もいつまでも遊んでもらえる歳じゃないって分かってるんだ」
「どうした突然…」
「わかってるんだ。こんなの、今年までかなあって」
「そりゃまあ、お前ももう小さい子供じゃないけど…」
「最後にもう1回潜ってから帰りたい!」
「はは、はいはい。わかった。付合うよ」

僕は兄ちゃんの肩に両手を乗せ、一緒に、えいっ、て水に潜った。

1番深いところで、僕は洋兄ちゃんの唇にキスをした。

水から出て、僕は兄ちゃんが何が言う前に、
「ずっと好きだった」って、言った。
「涼…?」
「今まで遊んでくれてどうもありがとう。さようなら。僕、1人で帰れるから」
そう言う僕を兄ちゃんは引きとめなかった。僕は1人で家に帰った。

僕の気持はプールの底に置いてきたから平気。
洋兄ちゃんと会わなくても僕は大丈夫。

僕は自分から洋兄ちゃんに会いに出かけなくなった。
なのに、その分、洋兄ちゃんは遊びにおいでと電話をくれる。

何もなかったような毎日が続いていた。

「…兄ちゃん、彼女元気?最近見ないね」
「別れた」
「また!?」
「好きな子が出来た」
「…またか」
「またかって何だ?言っとくけどな、俺はいつも相手から告白されて付合ってるんだ」
「同じ事だよ」
…僕にしたらどっちでも。
「考えてみたら、ずっと前から俺も好きだったんだ。いつも大事にしてて、
 それが普通と思ってたから気付くのが遅れたけど…」
「はいはい」
「…涼、聞いてんのか?」
「聞いてない。僕には関係ないじゃん。ねえ、このマンガの続きはどこにあるの?」
「まだ発売されてない。…なぁ、お前分かってんのか?」
「だっていつのマンガかなんて知らないよう」
「そうじゃなくて…」
「マンガ読んだし、クーラーつけてくんないし、もう帰る」
「仕方ないだろ。バイト辞めて金欠なんだから節約生活しないと、涼っ。待てってば」
「なに?」

「今日、泊まっていかないか?」

                       END