エレベーター前 20:45
いいですよと言われたからって、
はいそうですかと通りぬけ出来るわけがない。

村崎さんは元通りに分類しながら集めていた。
ならば俺は遠くに飛んだ紙から拾おう。

「村崎さん、コレ、右上のが通し番号?」

「そうです」

「D-7、D-8、D-9…か。D番は俺が拾います」

「すいません斉藤君」

よく謝る人だ。

「D-1、2、3…10と。揃いましたよ、はい」

「あ、ありがとう。…すいません」

渡そうとしたら、手がいっぱいだった。
いくつかの資料を指で挟んで分けて持ってる。
これは、俺がぶつからなくても落としたに違いない…

「えっと、ここ。ここに挟んで下さい」

「ここ?中指んとこ?無理だって、村崎さん」

「すぐそこまでですから」

「この辺、持つよ?すぐそこなら付き合う」

「すいません…あ」

謝らなくていいんだよ、の代りに手を握る。
それだけで、あの夜のことを思い出したように
村崎さんは目を伏せた。

夜のビル。静かな廊下に二人きり…

…ではなかった。
廊下の角から人が来て、

「ああ、村崎君。遅いから様子を見に行こうかと…
 …斉藤?」

慌てて手を引いたが、多分、見られた。
出来ればこのまま、背中を向けたまま
走って逃げたいが…


         振り向く