いいですよと言われたからって、
はいそうですかと通りぬけ出来るわけがない。
村崎さんは元通りに分類しながら集めていた。
ならば俺は遠くに飛んだ紙から拾おう。
「村崎さん、コレ、右上のが通し番号?」
「そうです」
「D-7、D-8、D-9…か。D番は俺が拾います」
「すいません斉藤君」
よく謝る人だ。
「D-1、2、3…10と。揃いましたよ、はい」
「あ、ありがとう。…すいません」
渡そうとしたら、手がいっぱいだった。
いくつかの資料を指で挟んで分けて持ってる。
これは、俺がぶつからなくても落としたに違いない…
「えっと、ここ。ここに挟んで下さい」
「ここ?中指んとこ?無理だって、村崎さん」
「すぐそこまでですから」
「この辺、持つよ?すぐそこなら付き合う」
「すいません…あ」
謝らなくていいんだよ、の代りに手を握る。
それだけで、あの夜のことを思い出したように
村崎さんは目を伏せた。
夜のビル。静かな廊下に二人きり…
…ではなかった。
廊下の角から人が来て、
「ああ、村崎君。遅いから様子を見に行こうかと…
…斉藤?」
慌てて手を引いたが、多分、見られた。
出来ればこのまま、背中を向けたまま
走って逃げたいが…
振り向く