「すいません、何の話しですか?」
村崎さんにそう言われ、
双子が顔を見合わせる。
「ちがうなら…」
「いいけど…」
「よくわからないけど、書類ならよく落すから。
斉藤君のせいじゃないよ?」
「そうですか…」×2
「あ、いいよ。揃えながら拾いたいから」
「はい」
「それでは」
俺にはひどいと言っておきながら、
自分達も拾わずに双子は仕事に戻って言った。
「斉藤君も、いいよ?」
「あ、村崎さんさっきのは―…」
「だいたい分かったから、いいです」
にっこり微笑まれ、一瞬、時が止まる…
我に返り、さすがに素通りできなくて
拾うのを手伝った。
「すいません斉藤君」
「いや…。これ、右上の番号で並べたらいいんだろ?」
「そう。すいません、お願いします」
よく謝る人だ…
「はい、これで最後。…だけど」
渡そうとしたら、手がいっぱいだった。
いくつかの資料を指で挟んで分けて持ってる。
これは、俺がぶつからなくても落としたに違いない…
「えっと、ここ。ここに挟んで下さい」
「ここ?中指んとこ?無理だって、村崎さん」
「すぐそこまでですから」
「この辺、持つよ?すぐそこなら付き合う」
「すいません…あ」
謝らなくていいんだよ、の代りに手を握る。
それだけで、あの夜のことを思い出したように
村崎さんは目を伏せた。
夜のビル。静かな廊下に二人きり…
…ではなかった。
廊下の角から人が来て、
「ああ、村崎君。遅いから様子を見に行こうかと…
…斉藤?」
慌てて手を引いたが、多分、見られた。
一難去ってまた一難…
振り向く