エレベーター前 20:45
「すいません、何の話しですか?」

村崎さんにそう言われ、
双子が顔を見合わせる。

「ちがうなら…」
「いいけど…」

「よくわからないけど、書類ならよく落すから。
 斉藤君のせいじゃないよ?」

「そうですか…」×2

「あ、いいよ。揃えながら拾いたいから」

「はい」
「それでは」

俺にはひどいと言っておきながら、
自分達も拾わずに双子は仕事に戻って言った。

「斉藤君も、いいよ?」

「あ、村崎さんさっきのは―…」

「だいたい分かったから、いいです」

にっこり微笑まれ、一瞬、時が止まる…

我に返り、さすがに素通りできなくて
拾うのを手伝った。

「すいません斉藤君」

「いや…。これ、右上の番号で並べたらいいんだろ?」

「そう。すいません、お願いします」

よく謝る人だ…

「はい、これで最後。…だけど」

渡そうとしたら、手がいっぱいだった。
いくつかの資料を指で挟んで分けて持ってる。
これは、俺がぶつからなくても落としたに違いない…

「えっと、ここ。ここに挟んで下さい」

「ここ?中指んとこ?無理だって、村崎さん」

「すぐそこまでですから」

「この辺、持つよ?すぐそこなら付き合う」

「すいません…あ」

謝らなくていいんだよ、の代りに手を握る。
それだけで、あの夜のことを思い出したように
村崎さんは目を伏せた。

夜のビル。静かな廊下に二人きり…

…ではなかった。
廊下の角から人が来て、

「ああ、村崎君。遅いから様子を見に行こうかと…
 …斉藤?」

慌てて手を引いたが、多分、見られた。
一難去ってまた一難…


         振り向く