呪文を唱えると、水の中から橋が浮きあがった。
石造りのそれを渡り、湖の中に島に渡ると…
「ぬくい…」
忍が呟いた。
今までいた冬の森の気候とはまるで違う、
初夏のようなあたたかさだ。
足元には生えたばかりの瑞々しい草が茂り、
花が咲き、蝶まで飛んでいる。
めぇめぇ
聞きなれない泣き声がした。
首に赤い首輪と大きな鈴をつけている、羊の群れだ。
死んだばかりの2本足のケンタウロスと似た姿で、脚は獣だ。
どれも穏やかで優しい顔つきをしている。
人に慣れているようで、呼んでもいないのに
こちらにやってきて我々を囲んだ。
「…どれを連れて行く?」
「決っている……。毛があるやつだ!!」
どれもないのだ、ふわふわの毛が!
刈ったばかりで寒いからと、
この魔法地区に集められていたのだ、この羊達は…
あ、の、魔道士め〜…
「こいつは?けっこう生えてるぜ?」
「いかん!そんな毛並みが悪いから刈られなかったような奴はいらぬ!」
「こ わい。こわいー」
「銅!逃げるな、羊が付いて行くだろう!走るな!
あ、うわ、ああ!」
「? …王様?おーいどこだよお、王様あー」
…私ならここだ。
羊に押され倒れ、しかも踏まれている…。
もういい、羊などいらん。
結局、私は肋骨を折った。
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