草原を抜けると丘に出た。
小高い丘を上り、下りると湖に出た。
湖面は静かだが、近くに滝があり、河につながっているのだろう。
心地の良い済んだ水音がどこからともなく聞こえてくる。
銅が水辺で膝を折り、
鏡のような湖面に手をつけた。
「つめた い」
…当然だ、愚か者。
「きれえなところだなー…」
この男にもそんな感性があったのか、
忍が柄にも無い事を呟いた。
銅が冷えた指先に息を掛けると、
白い影がふわりと舞った。
ここは空気が冷えている。
「…寒いか?銅」
「さむい で、す。おうさ ま」
忍が大袈裟にこちらを向いた。
「あんたにもそんな感性があったのかよ!
他人を気遣うなんて、柄じゃねぇよ!」
「…湖に放り込むぞ、貴様」
眼の端で白い影が動いた。
私の息か?
ちがう…もっとはっきりとした…
私は水辺の向こうへ目をこらした。
柔らかく、あたたかなイメージの獣の気配…
「どうかしましたか、王様?」
忍が騎士の顔をして、腰の刀に手を掛ける。
「…いや、気のせいだ」
「なんだ、何かと思ったぜ」
ここには何もないようだ。
何も見つけられなかった私達は森の入口へと戻った。