「天君、大丈夫!?」
「えっ」
僕は2人にかけよって、天君の腕を掴んで止めた。
右手にも左手にも「僕」が現れて、天君は混乱していた。
しかしすぐにどちらか本当の僕か気付き、知らない人が握ったままの手を嫌そうに引いた。
「すいません、連れが迷惑かけて。ありがとうございました」
僕はそう言った。
しかし、男性は天君の手を放さない。
「この子から誘ってきたんだぜ」
いやらしそうな目で天君を見てそう言う…
「やー…」
手を放してもらおうと引っ張る天君に僕は腕を添えて、男から彼を引き離した。
「溺れてるところを助けてもらってありがとうございました。もう大丈夫ですから」
僕は、まわりの人に聞えるように大きな声でそう言った。
まわりの視線が集まり、男は何かごにょごにょ良い訳しながら去って行った。
僕は引き離した勢いにまかせて天君を抱きしめていた。
なんだ、あいつ。さっきの男が視界から消えるまでと睨んでいたら、
奴は女の人と合って腕を組んで行ってしまったのだ。
女連れなら男の子に手を出そうとするなよーっ。
僕は腕の中の天君を見た。
顔色がまだ青い。長い睫が震えている。
魔がさす気持もわかるけど…
「こわかった…」
「うん、目を離してごめんね」
僕は天君をぎゅうって抱いた。
僕等はプールを出て帰路についた。
「じゃあ、天君、今日は…」
楽しかったよ?大変だったね?誘って、ごめんね?何ていえばいいんだろう…
公園の噴水の前で、お別れを言いかけて僕は黙った。
「噴水で泳いだほうがマシだったかもね」
そう行っても天君は黙ってる…。
「夏木君…?」
僕は荷物を置いて靴を脱ぎ、噴水に入った。
きれいな水が上から降ってくる。
あの時だるそうに泳いでたデメキンも、非力な自分に憂鬱だったのかもしれないと思った。
ぱしゃっ。
水音に僕は振り向いた。
「濡れちゃうよ、天君」
「いいの…」
彼も、噴水に入って僕の横に立った。
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