「自分で払うから、さっきのお姉さんと同じの飲みたい」

「ダメだね。あれは可愛い女の子にしか出せないんだ」

 むきーっ。
…なんて、サルみたいにむくれてみせる僕の、胸の奥がズキッてした。
なれてるから平気。大丈夫。

「…というのは冗談で、あれはカクテルだからだーめ。他のにしてくれよ未成年」
兄ちゃんは、ぽんっと僕の頭の上に手をおくとそのまま、なでなでってした…

「沢村君は?」
「コーヒーでいいです」
「じゃ、2人共、300円だ」
「…高いよ兄ちゃん」
「お前、自動販売機と比べるなよ。店で飲物頼んで300円だったらどれだけ安いか」
「沢村、持ってる?」
「涼、自分で払うって言ったよな?」
「後で絶対返すよ」
沢村は500円硬貨を3枚出した。
兄ちゃんはそれを1枚とって、「100円おごってやる」と言った。

沢村はアイスコーヒー、僕は薄緑のジュースを飲んでる。
少し炭酸が効いててあんまり甘くなくておいしい。

カウンターで飲みたかったけど、洋兄ちゃんの邪魔になるといけないから
離れたテーブル席に座ってる。

沢村は泳ぎ疲れたのかぼんやりしていた。
僕もこうしていても上の空で兄ちゃんの事ばかり考えてる。

隣の席の女の子達がまた洋兄ちゃんを指差した。
嬉しそうになにかひそひそ喋り合う。
かっこいいでしょー。あの人は僕の兄ちゃんなんだよー。

あっ、女の子の1人が飲物のグラスを倒した。
「すいませーん」て、もう1人の子が手を上げる。
気付いた兄ちゃんが布巾を持ってテーブルに近寄る。

やだなあ…。あれ、ワザとだ。
兄ちゃんはにこにこしながら片付けて、拭き終わったのにまだ
女の子達としゃべってる…


         僕もグラスを倒す。

         もう泳ぎに行く。