兄ちゃん僕も僕もー。

「えい」
だぼだぼだぼー…

「あっ、このバカっ」
思いっきり飲物を溢した僕にバカというと兄ちゃんは別の布巾を取りに走って行ってしまった。

「…なにしてるんだ夏木」
「だってさ、兄ちゃんが僕以外の人に優しくすんのヤなんだよ」
…しまった。
兄ちゃんの後姿見てたら、つい、また本音を言ってしまった。
他の友達なら「お前ガキだなぁ」とか「我侭だねー」ですむけど…

…ほらね。恐る恐る見るとやっぱり沢村は眉を寄せて考えてる。
「…僕ねえ、兄ちゃんが好きなんだ」
う、恥ずかしい。顔が赤くなるよ。
「気持ちは分からないでもないが…」
沢村は慎重にそう言った。
「でも、僕、わかってるから。王子様はお姫様と幸せになるって」
「………」
「そのうち、海の藻屑になって消える運命なんだ。僕はー…」
だから僕、あの話はキライなんだ。

僕はもう一度、洋兄ちゃんのほうを見た。別のお客さんに声かけられて何か説明してあげてる。
女の子のお客さんに、兄ちゃんは優しい笑顔で丁寧に話してる。兄ちゃんはもてるなー…
あ、お店にはあの彼女さんもいたのか…

考えていた沢村はゆっくり口を開いた。
「夏木と人魚姫を重ね合わすのはおかしい」
「…わかってるよ。そんなの」
「夏木には想いを伝える声があるのだから…つまり、だから…」
僕は沢村の顔を見て笑った。
だって本当に困ってるんだもん。
沢村が簡単にあきらめろとも告白しろとも言わないのが嬉しかった。
僕が笑ってるからますます沢村は困ってる。
「…すまない」
「あのさ、僕と沢村といっぱい話したり遊んだりしたの、今日がはじめてだけど、
 今日だけじゃなくて、ずっと友達でいてくれる?」
「勿論」
沢村は考えずにそう返事してくれた。

「…では健闘を祈る」
「えっ、沢村どこいくの?」
「先に帰る。後は頑張るように」
それって告白しろって言ってる?無理だよー。急に言われても無理ー。

     引きとめる。

     頑張る。