僕はワザとぐずぐすした。
更衣室から何人かの先輩達が出てきた。スクール水着の横に入ったラインの色で学年がわかる。

「潮、夏木、久しぶり」
副部長が声をかけながらこっちへやってきた。
よく知ってる人だけど、水着姿は初めて見る。
部室で着替えるときにはよく見えなかったけど、細身の筋肉質ですごくきれいな身体だ。
僕も運動部に戻って鍛えたくなった。
「こんにちは先輩」
「……」
勇士は副部長を見ず、ぎざぎざしたコンクリートの床を睨んでいる。
「夏木、転んだのか?大丈夫かい」
「はい。大丈夫です」
僕は立ちあがり様、副部長の、耳に近い首筋に虫刺されのような小さなアザを見た。
さして気にせず僕は言った。
「あの、ごめんなさい副部長。部活辞めちゃって…」
「あやまらなくていいさ?俺だってこうしてサッカーしないで水泳部と遊んでるし」
副部長は笑った。
ほらね、気にしなくてよかった。なのにどうして勇士は副部長を避けようとするんだろう…

勇士は僕等を無視して更衣室に入っていった。
先輩は「さて、泳ごうかな」と呟くとプールに向った。

僕も更衣室に入った。

勇士はむっつりと黙って椅子に座っている。

僕が服を脱いで着替え出すと、
「…お前のせいだからな」
そう言って勇士も水着に着替えた。

               プールへ