「天君、ほら、見てよ。こんなに高いところまで水が上がってる」
楽しそうでないのならば、僕が盛り上げて楽しい雰囲気にしなくては。
僕は立ち上がって、手を大きく上に伸ばした。
僕の指の先よりももっと高いところから、水飛沫は降ってくる。
「ん?」
僕は向こうのプールにいた女の子と目があった。
あれー、クラスの女の子だあ。
「おーい」
僕は彼女に手を振った。彼女もにこにこ手を振ってくれた。
「誰かいたの?」
天君が立ちあがると、
きゃああー
歓声が上がり、クラスの女子は1人ではなかった事に、僕はやっと気がついた。
「やーん天君」
「すごい偶然ー」
「天君、なんてかわいいの」
色とりどりの水着を着た女子達は5人程度で天君を取り囲み、
髪を触ったり頬を押したり、まるで天君はお人形状態にしている。
「あれ、夏木だ」
「こんなところで何してんの?夏木」
僕は呼び捨てかよ…
「何ってプールですけど」
束になった女子ほどこわいものはないのでつい敬語になってしまう僕…
「あたし達、これから天君と泳ぐけど、夏木もくる?」
なんじゃそりゃあ。
「じゃ、あとは私達に任せなさい」
君達、強引すぎるぞー。
「夏木君ばいばーい」
天君は僕に微笑んで手を振り、女子に囲まれて行ってしまった。
「ば、ばいばーい」
…でも丁度よかったのかも。
僕、天君と何していか分からなかったから。
やっぱり天君は女子と遊ぶのが合ってる子なんだよ。20年後さえもきっと。
「涼っ、何ださっきの悲鳴は?あれ、友達はどうした?」
…来るのが遅いよ、洋兄ちゃん。
次へ