節電の為、一般勤務時間を過ぎたら
廊下の蛍光灯は半分消される。
うす暗い廊下に明るく洩れる光は…
…トイレだった。
「あ゛、斎藤さんだ…」
「やあ、真中君。まだ仕事してたのか、運命だな」
「運命はいいから、早くしないとモレますよ」
駆け込んできた俺にそっけなく言うと、
手洗いで雑巾を洗いはじめた。
「こんな時間に掃除?」
「帰る前に机拭かないといけないんです」
「そう、アルバイトも大変だな」
というと、彼は鼻で笑った。
「机拭くらいで…」
確かに。しかし、我社の女子社員達の妙なルールに
いちいち付き合わされるのも大変だと思う、ホントに。
彼は内勤補助のアルバイトだ。
銀行や郵便局に行ったり、伝票届けたり、
あとは簡単な伝票整理をやってる。
お姐さま方にまたいじめられて辞めないように
顔のいい美少年を選んだんじゃないか、という噂だ。
目が大きくて、髪がさらさらで、
愛想もよくてほんとに可愛い…かった。
『…じろり』
鏡越しに「まだ居るのか」と睨まれた。
俺のカンではおとせるはずの子なんだが、
どうも上手くいかない。こんな事はじめてだ…
口説きそこねて早3ヶ月。
今では、すっかり警戒されている。
俺の事どう思ってる?と聞く。
たまには引く。何も言わない。