私は忍をその場に待たせ、自室へと向った。
「あ…。おう、様…」
おどおどした瞳。たどたどしい言葉。
褐色の肌をした小柄な奴隷が、私に気付いて歩み寄ってきた。
幼い子供のように見えるが、単に栄養不足の発育不足かもしれない。
奴隷の齢はよくわからない。
昨年、攻め落とした国で拾ってきた奴隷だ。
泣きながら死体の血を洗う仕事をしていたのを、忍が不憫がって銅銭一枚で買い上げたのだ。
連れ帰り、あまりにも可愛がるから私が取り上げた。
名前を持たない奴隷を、私はこう呼んでいる。
「銅(コッパー)」
「はい、ごしゅじんさま」
「ご主人様ではない。王様だ」
「おう、さま。……ごめんなさい」
銅は正しく言い直し、上目遣いに私を見ると、おずおずと両手首を前で揃えて私に差し出した。
「ごしゅじんさま」「ごめんなさい」「お許しください」の言葉は巧く話せる奴隷は
罰を受けるのも慣れた様子だ。
…他人がしつけた罰をこの私が行うものか。
私の銅の手を無視した。
「狩りに出る。剣を持って来い」
「は…はい。おうさま」
銅は軽やかな裸足の足音を立てながら部屋の奥へと駆けていった。
そして、大事そうに両手で剣を抱え、よろつきながら戻ってくると、
膝をついて私に差し出した。
銀の剣は実用的ではないが、手入れが面倒なのが良い。
いくらでも奴隷に罰を与える口実ができる。
しかし弱々しいながらも労働奴隷だった銅は毎日完璧に剣を磨く。
よく仕事ができる奴隷ではあるから……。忍の目も捨てたものではないという事だ。
銅は私に剣を渡した後、次の指示を待っている。
「下がれ」 「お前も狩りの伴をしろ」