身繕いを整えた忍と部屋を出る。
「あ いた」
開けたドアが何かにぶつかった。
見ると床に、それがあった。いや、それが居た。
褐色の肌の、小柄な奴隷。
先ほど部屋から出され、そのまま廊下の扉の前に居たらしい。
「銅(コッパー)こんな所で待ってたのか?寒かったろう」
子供好きの忍が声を掛けて、頭を撫でた。
子供、というほどの年ではないのかもしれない。奴隷とは若く見えるものだ。
元はといえば、去年攻め落とした国で忍が買った奴隷だ。
銅銭一枚で買って、あろう事か城にまで連れてきた。
それから名無しの奴隷の為にいろいろと名前を考えていたようだが、
名前が決る前に私が忍から取り上げた。
奴隷は奴隷だ。まるで犬を拾ったように、可愛がりすぎるのはよくない。
銅。
その呼び方はやめろと言っていたくせに、今では忍もそう呼んでいる。
「銅」
「なんだよ」
「忍は呼んでおらん。…狩りに出る。剣を持って来い」
「は い。おう、さま」
たどたどしい言葉使いながら従順に返事をすると、
銅は部屋の中へと駆けていった。
「すぐに戻る。ここで待て」
つまり、お前は入ってくるなと忍に言い、私も部屋へ入った。
部屋の奥から大事そうに両手で剣を抱え、
よろつきながら銅が私の元へやってきた。
膝をついて私に剣を差し出す。
銀の剣は実用的ではないが、手入れが面倒なのが良い。
いくらでも奴隷に罰を与える口実ができる。
しかし弱々しいながらも労働奴隷だった銅は毎日完璧に剣を磨く。
罰を与える口実は、なかった。
銅は私に剣を渡した後、次の指示を待っている。
「下がれ」 「お前も狩りの伴をしろ」