「無くすと困るから外しておきなよ。コンタクトって高いんでしょ?」
「うん。外す」
天君は白くて小さい容器と、銀色の手鏡を出した。
「これ持ってて?」
「うん、いいよ」
天君は容器の蓋を開けて僕に渡した。受け取って、中の液を溢さないよう水平に持つ。
天君は鏡を見ながら眼球の表面を摘み、薄い膜を剥ぎ取った。
「うわっ、コワっ。わー」
「……だって仕方ないのに」
天君は目から出したソフトレンズを容器の片方に入れ、もう一方の目も同じようにした。
容器に蓋をするとき、天君は顔に触れそうな位置まで容器を近付けていた。
よっぽど視力弱いんだな。
そういえば、目が大きい人って、それだけ目の筋力に負担がかかるから
目が悪くなりやすいんだっけ。
「天野君歩ける?はい、手つなごう」
「いらないの」
「へ?おーい、天くーん」
天君は1人ですたすたとプールに向って歩いて行った。
すねちゃったらしい。困ったな。
僕は心配しつつも1人で歩けるという天野君を後から見守った。
しっかりした足取りで、人にもぶつからずに歩いてるけど…
「天君、そっちはトイレだよ」
「う」
やっぱり見えてなかったか。僕は強引に彼と手をつないだ。
「僕から離れちゃだめだよ。はい、は?」
「はい」
天君は素直に返事した。
あーやっぱりかわいいなー。
しかし、天君はどこを見ていいのかわからない感じで、ぼんやりした瞳をしている。
「僕の顔見える?」
「形はわかるの。でも、目とか鼻とか口とかわかんない」
そうなんだ…。だったら仕掛けのあるプールは危ないかもね。
シンプルなプールで泳ごう。
僕は天君を連れ、
広くて浅い方のプールに入った。
狭いけど深いプールに入った。