水の生き物みたいに、上手に泳ぐ天君を眺めているのは楽しかった。
ゆったりした泳ぎで人をかわし、水を進む。

と、彼は疲れたのか泳ぎを止めた。立とうとしたが、下に足がつかない―…

「天君!」

溺れかけた彼に僕が辿り着く前に、天君は近くの人の腕を掴んだ。
僕等より少し年上くらいのその男の人は天君を腕に抱き抱え、足が付くところまで移動した。

「はあ、はあ…。ボク、こわかったの。やっぱりコンタクトないと、見えないとこわい。
 もう上がる。夏木君、ボクを更衣室に連れて行って」
天野君はそう行った。

天野君を助けてくれた男の人は、黙って天君の手を引いてプールサイドまで彼を連れていき、
そして更衣室に向おうとしている。

多分、天君はあの人を僕だと勘違いしている。
あの人はそれに気付いてるはずだ…

僕は…

       天君に声をかけた。

       様子を見守った。