道の黒い石がだんだんと増える。
終いには真っ黒な道になった。
じゃりじゃりと石を踏む脚は疲労で重い。
どれくらい歩いただろうか…
この道には先が見えない。
雲行きも怪しくなり、季節外れにも豪雨を呼びそうな重く黒い雲が空を被っている。
吹く風も身を切るように冷たい。
雪がないのが不思議なほどだ。
私にはやや冷たい程度の風だが、東生まれの忍は顔をしかめ、
おそらく南生まれの銅に到っては泣きながら歩いている。
とうとう忍がこう言い出した。
「引き返そう、王様」
「この程度でか?氷河を攻めた時を忘れたか?」
「あの時は毛皮もあったし…見てみろよ。銅は一枚しか布を身につけてないんだぜ。
足もサンダルだ。こんな寒い目にあって可哀想だと思わないのか?主として」
「もっと過酷な状況で働く奴隷もいる」
「銅 は だいじょ、ぶ。いっしょ いきた、い」
喋りながら歯をカチカチとならす。
…次の展開として、忍は銅を抱き上げるだろう。
銅は忍に感謝し、私は悪役だ。…いかん。
私は肩からマントを外した。
忍に掛けてやる。
「王…?」
「銅の心配より己の心配をするがいい。無理をするな忍」
それから銅を抱き上げた。
銅は中身が空の人形の様に軽い。
「落ちないように私の首に手をまわせ。…こうしていればすこしは暖かいだろう」
「は い」
ひんやりとした銅の感触は、直ぐに温もりに変った。
優しくされて銅が、うっとりと私を見る。
忍も…
振りかえると忍は眉をひそめてこちらを見ていた。
肩のマントを握り締めて、しかも首を横に振りながらこう言った。
「そんなはずがない。ださまれてる」
「どういう意味だ」
「この王様はニセモノだ」
「貴様…殺すぞ」
「あ、よかった。本物だわ」
「忍〜…」
掛けてやったマントを取り返そうと手を伸ばしたが、忍は逃げた。
「違う違う、えっと、その…あ!この道!道だよ道」
必死に良い訳しようとする。
「おかしいぜ、この道、この天気…」
この銅を投げつけてやるか…
「銅 も へん、おもう。道 いっしょ …いっぱい」
最後に言った『いっぱい』は首を傾げながら言った。
おそらく『ずっと』そう言いたかったのだろう。
「お前達に言われなくてもわかっている…」
確かに、この道は異常だ。
いつまでも同じ木々が、いつまでも右に曲がる道成りが続いていた。
…おのれ、私を謀るとは。
誰だか知らんが耳を添いで頬からナイフを入れて顔の皮をはいでやる。
眼に針をさした上で手足の爪を1枚ずつ剥ぎ、全身の皮をはいでやる。
髪には火を付け、肉に塩をぬり込んだうえで生きたまま百匹の鼠に食わせる。
それから…
「も、や。こわ い。銅、おり る」
…いつの間にか考えを口に出していたようだ。
私の腕から逃げ、下りた銅が、忍の後ろに隠れた。
「やっぱりあんたは本物だ、よかったよかった」
忍め。私をばかにしているな。
みていろ。
私はこの道の呪縛から逃れる為に……
呪文を唱えた 剣を掲げた 忍になんとかしろと言った