林を抜け、草原へと出た。

夏には腰の高さまである草むらだが、冬の寒さに枯れて風で折れ、
膝ほどの高さで茶色の草原が静かに揺れている。

不意に、がさがさとあちらこちらで不規則に草が揺れた。

「なに…か、い る?」
「あれは兎だろう」

私は無知な奴隷に、親切に教えてやった。

「この森の兎は丁度、お前ほどの背丈だ。お前のような肌の物も、私のような肌の物もいる」
「銅と おな じ、はうさぎ の奴隷?」
「兎に王も奴隷もあるものか。皆等しく長い耳を生やして跳ねて草を食うだけだ」

「王、兎を狩るのか?」
…忍が『様』をつけずに私を呼ぶのは何か不満がある時だ。

「銅、兎を見たいか?かわいらしいものだぞ」
「みた い。かわいスキ」
「残念ながら、兎を狩るには弓か罠が必要だ」
「ざんね ん?」
「兎はいいぞ。悲鳴を上げんのが難だが、肉も旨いし」
「ヒ…」

「さぁ!次行こうな!次!やっぱり余計な事を…」
「忍さ ま、肉…たべ…」
「泣くな泣くな、ばか王の冗談だから、な?銅」

「…何か言ったか」
「ばーか!」
「…随分、強くなったじゃないか忍」

「あ うさ、ぎ?」

見ると銅の指差した先には、一匹の兎がぼんやりと佇んでいた。
まだ若い、メスともオスともとれる中性的な、美しい兎だ。
長い耳は下向きに垂れていた。
枯れ木の上に座っている。

こちらに気付いているのかいないのか…

「あぁ、怪我してるな」

眼が良い忍が目敏く気付く。
その足には乾いた血のような茶色の汚れがあった。

私は銅を見た。
「あの こ、かわい そう…。つかまえる は、や…」

忍を見た。
「弱った兎なんか捕まえても仕方ないぜ。次行こう、王様」


私は…



草原の向こうへと進む    草原を横に進んで別の林へ向う   兎を捕まえる